わたしはかねてから、「大学入学共通テスト」の記述問題の採点精度をどうやって高めるのか、
結局、学生アルバイトを中心に行われるようになり、公平な採点ができないのではないかと危惧しておりました。
東洋経済オンライン(https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190423-00277297-toyo-bus_all&p=1)
に同様の指摘をする記事がでていたので、引用して紹介します。
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2019年4月4日、大学入試改革に取り組む大学入試センターは、「センター試験」の後継制度として2020年度から始まる「大学入学共通テスト」の2回目のプレテスト(本番を見据えて実験的に行うテスト)の結果を発表した。
特に「国語」「数学」の記述問題に関する課題は山積みで、教育現場からは不安の声も多い。それに対し、改革を推進しなければいけない立場の関係者からは、苦し紛れの”珍発言”が相次いだ。
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”山積みの課題”とは、「記述式問題の正答率の低さをどう改善するか」「記述式問題の採点精度をいかに高めるか」「記述式問題の自己採点と実際の点数の不一致をどう解消するか」などである。
4月5日の朝日新聞には、中央教育審議会長として高大接続改革の議論を主導した安西祐一郎氏が「正答率が低いのであれば、それは問題が不適切だからではなく教育改革が進んでいないからだ」「受験生のほとんどが0点であっても問題を変えず、解けるようになるよう、授業を変えることを目指すべきだと思う」などと強弁し、学習者おきざりの制度改革観を露呈した。
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記述式問題の自己採点が実際の得点と不一致を起こす問題については、大学入試センターの大杉住子前審議役が「自己採点自体が、思考力・判断力が必要な作業だ」とコメント。それが十分にある受験生なら、せいぜい100字程度の記述式問題などわざわざ解かせなくてもいいはずだ。「自己採点制度自体に無理がある」という苦しい本音が垣間見える。
いずれの発言も、「制度の不備」を「他人のせい」にすり替える論理が共通している。大学入試センターが今、極度に難しいミッションに取り組むハメになってしまっていることに同情はするが、それにしても「それを言っちゃあ、おしまいよ」という話である。
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■約2000人の学生バイトが記述問題を採点
いったい何がどうなっているのか、整理しよう。今回の制度改革では、「国語」と「数学」については記述式問題も出されることになったのが大きな変更点。
1回目のプレテストにおいて、数学の数式を書かせる問題2問の正答率は2.0%と4.7%、短文を書かせる問題に関しては8.4%だった。2回目にはそれぞれ5.8%、10.9%、3.4%で、正答率の低さは変わらなかった。これでは差がつきにくい。せっかく手間をかけて解答しても間違える確率が大きいのであれば、記述式問題を後回しにするという受験テクニックが横行しかねない。それではなんのための記述式導入か。
一方、国語の80~120字の記述式問題の完全正答率は、1回目のプレテストでは0.7%だったが、2回目には15.1%まで上昇した。解答のために必要な条件を、問題文の中でわかりやすく示したことが功を奏した。しかし条件に一致する文章を作業として作文するだけであるならば、膨大な費用と手間をかけて記述式問題を導入する意味があるのかという疑問が生じる。
また、今回のプレテストでは、採点基準の共有に、予想以上の時間がかかった。理由について、大杉前審議役は「基準の確定が遅れたため、採点者が理解する時間が不十分だった」と説明している。
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採点はかねて「専門の業者が行う」ことになっており、今回は通信教育のベネッセが請け負ったが、実際の採点作業をしたのは、約2000人の大学生および大学院生だった。要するに学生アルバイトである。
入試本番では約1万人の体制で採点に臨むと考えられている。公平な採点を実現するためには、採点基準を極限まで明確化し、機械的に作業を行う必要がさらに高まる。
私は、2018年10月に発刊した拙著『受験と進学の新常識』(新潮新書)の中で、某私立中高一貫校校長のコメントを含めて以下のように指摘した。
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「記述式の採点は専門の業者が行うというが、いくら専門の業者でも、50万人分の答案を採点できるほど専門の職員がいるとは思えない。実際は大量のアルバイトに採点させることになるのではないか」。結局は素人に機械的に採点させるのなら、記述式問題を出す意味があるのかという、もっともな疑問だ。
図星であったといえる。
素人に機械的に採点させるのであれば、むしろAI(人工知能)に採点させたほうがいいのではないかという話にもなりかねない。巷では「AIにはできないことができる人間を、これからは育てなければいけない」といわれているにもかかわらず、AIに認められる人間かどうかが大学入試合否の基準となり、そのための授業が高校で行われるようになるのだとすれば、大いなる矛盾である。
この改革を推し進める先に、理想の大学入試が本当に実現するのだろうか。その先に待っているのはむしろSF小説で描かれるような「ディストピア」ではないか。そんな不安が頭をよぎる。
さらに、受験生は自己採点を基に最終的な出願先を決めることになる。しかし、数学の記述問題の自己採点不一致率は、問題によって6.6%から14.7%だった。国語の記述式問題における自己採点不一致は約3割にも上った。自分の本当の点数がよくわからないまま志望校をどこか1つ選ばなければならないとすれば、ほとんどギャンブルだ。
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■従来どおりの入試の私大が人気になる可能性
新制度による入試本番まであと1年9カ月を切った。プレテストはもう行われない。もっとも合理的な解決策は、記述式問題導入の延期であるように思えるが、「大人の事情」で、いまさら後には引けないのだろうか。
ちなみに、今回の大学入試改革では、英語の民間試験の導入も大きな目玉であったが、2018年9月には、東大が、入学者選抜に「民間英語試験」の成績提出を実質的に必須としないと発表するなど、この点でも混乱が続いている。
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だとすると、受験生が自分を守る方法は限られる。「新テスト」を回避して、結局従来通りの入試を続ける私立大学に人気が集まるという皮肉な現象が起こりかねない。その選択を誰が非難できようか。
一方で、文部科学省は、私立大学に対して入学定員の厳格化を求めている。そのため、特に東京都23区内の私立大学が難関化し、予備校の模試で「A判定」をもらっていても不合格が続出するという事態が発生している。そこに「新テスト回避組」がなだれ込むとなれば、さらに難関化する可能性がある。
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初めての「新テスト」を受験する子供たちはすでに高校2年生。先行きがまったく見えない中でそろそろ志望校を選定し、受験勉強を始めなければならない。「大人の事情」に翻弄され、非常に難しい選択を迫られることになる。
受験生やその保護者および高校の教員たちの不安は増すばかり。この改革は、誰のためにどこに向かっているのだろうか。
引用終わり
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人生が大きく作用する入試の採点を誰がどのような形で行うのか、十分な議論がされていないことは、大変な問題だと思う。
引くに引けない状態となっているのでしょうか…
消費増税と同様、先送りできないものだろうか。