今日は溶解性に関する正誤問題です。
有機化学では,水(極性溶媒)と有機溶媒(≒無極性溶媒)に対する溶解性について出題されます。
一般に,極性分子は極性溶媒である水に溶け,無極性分子は無極性溶媒であるジエチルエーテルやベンゼンなどの有機溶媒に溶けます。
似たものどうしは,よく溶けると覚えるといいでしょう!
★次の正誤を判定せよ。
■問題① アルカン,アルケン,アルキン,いずれも水,ジエチルエーテルによく溶ける。
■問題② エタノール,1-ヘキサノールは,ともに水によく溶ける。
■問題③ エチレングリコール,グリセリンは,ともに水に不溶である。
■問題④ エタノール,アセトン,アセトアルデヒド,酢酸は,水にも有機溶媒にも溶ける。
■問題⑤ エーテル,エステル,いずれも水によく溶ける。
■問題⑥ フェノールは,水にも有機溶媒にも溶けにくい。
■問題⑦ 安息香酸は,冷水には溶けないが,熱水には溶ける。
■問題⑧ 油脂とセッケンは,ともに水によく溶ける。
■問題⑨ 多糖類であるセルロースやデンプンは,水によく溶け,二糖類であるスクロースや単糖類であるグルコールは,水に溶けにくい。
■問題⑩ アミノ酸は,水にも有機溶媒にもよく溶ける。
★解答
□問題①
□解答 …… 誤り。
アルカン,アルケン,アルキンいずれも極性が極めて小さい分子のため,極性溶媒である水にはほとんど溶けず,無極性溶媒であるジエチルエーテルなどの有機溶媒にはよく溶けます。
電気陰性度とは,異なる原子が共有結合したときに,その原子が共有電子対を引きつける強さを数値化ししたもので,
大きさの順位は,F(4.0)>O(3.5)>N,Cl(3.0)>C(2.5)>H(2.1)となります。
電気陰性度に差がある原子が共有結合すると,電気陰性度の大きい方の原子が共有電子対を引きつけ,やや負の電荷を帯び,小さい方の原子がやや正の電荷を帯びます。
このようにして生じた電荷の偏りを極性といいます。
そして,極性をもつ分子を極性分子,極性をもたない分子を無極性分子といいます。
Point !
極性とは,電荷の偏りで,電気陰性度の差により生じる。
水に溶けるとは,溶質が水素結合や水和(溶質の粒子が水分子によって取り囲まれる現象)によって水分子と均一に混じり合うことです。
水分子は,折れ線構造で,水素原子が正の電荷,酸素原子が負の電荷を帯びた極性分子のため,極性分子とはお互いが電気的に引き合って水和します。
しかし,無極性分子は電荷を帯びていないため,水分子とは電気的に引き合わず水和しません。
つまり,極性分子は極性溶媒である水によく溶け,無極性分子は無極性溶媒であるジエチルエーテルやベンゼンなどによく溶けるのです。
似たものどうしは,よく溶けると覚えるといいでしょう!
Point !
極性分子 → 極性溶媒である水に溶けやすい。
無極性分子 → 無極性溶媒であるジエチルエーテルなどに溶けやすい。
□問題②
□解答 …… 誤り。
エタノールは水によく溶けますが,1-ヘキサノールは,水にあまり溶けません。
ヒドロキシ基-OHのように極性をもち,水和されやすい基を親水基,
一方,炭化水素基-CmHnのように極性をもたず,水和されにくい基を疎水基といいます。
極性分子の水に対する溶解性は,分子内の極性部分と無極性部分とのバランスによります。
アルコールは,ヒドロキシ基-OHが、水と水素結合をするため,炭素数が3個までは水によく溶けますが,炭素数が多くなるにつれて疎水基の割合が多くなり水に溶けにくくなります。
1-ヘキサノールは,炭素数が6個で水にあまり溶けません。
□問題③
□解答 …… 誤り。
エチレングリコールはヒドロキシ基(-OH)を2つもつ2価アルコール,グリセリンは,ヒドロキシ基を3つもつ3価アルコールで,分子全体に対する親水基の割合が大きいので,両方とも水によく溶けます。
□問題④
□解答 …… 正しい。
アルコール,アルデヒド,ケトン,カルボン酸は,炭素数が3~4までは水によく溶けます。
一般に,極性分子は水に溶けやすく,無極性溶媒の有機溶媒には溶けにくいのですが,エタノール,アセトン,アセトアルデヒド,酢酸は,疎水性のメチル基-CH3ももつため,有機溶媒にも溶けます。
□問題⑤
□解答 …… 誤り。
一般に,エーテル,エステルは,分子全体の極性が小さく水にはあまり溶けません。
エステル結合には極性がありますが,両端を疎水基ではさまれると水和しにくくなり水に溶けにくくなります。
ただし,エーテル,エステルでも炭素数が最小のジメチルエーテル,ギ酸メチルのみ水に溶けます。
□問題⑥
□解答 …… 誤り。
フェノール類は,ベンゼン環部分が疎水性で水には溶けにくく,エーテルなどの有機溶媒には溶けます。しかし,フェノールは,フェノール類の中で,分子全体に対する親水基(-OH)の割合が最も大きいので,水に少し溶けます。
芳香族化合物は,ベンゼン環が疎水性のため,一般に水には溶けにくくなります。
□問題⑦
□解答 …… 正しい。
安息香酸は,芳香族カルボン酸で,冷水にわずかしか溶けませんが,熱水にはかなり溶けます。
芳香族化合物の水への溶解性をまとめると次のようになります。
Point ! 芳香族化合物の水への溶解性
・一般に,芳香族化合物は,水に溶けにくく,有機溶媒に溶けやすい。
・フェノールは,水に少し溶ける。
・安息香酸は,冷水には溶けないが,熱水には溶ける。
□問題⑧
□解答 …… 誤り。
油脂は,高級脂肪酸とグリセリンとのエステルで,分子全体に対する疎水性の部分が多く占めるので,極性溶媒には溶けず,無極性溶媒である有機溶媒には溶けやすくなります。
セッケンは,高級脂肪酸のアルカリ金属塩で,塩はイオン性物質なので電荷をもつため水によく溶けます。
□問題⑨
□解答 …… 誤り。
単糖類,二糖類は親水基であるヒドロキシ基-OHを多くもつため,水によく溶けます。
多糖類であるセルロースやデンプンは,冷水には溶けません。
しかし,デンプンは,熱水につけておくと,アミロース部分が溶け出します。
ただし,アミロペクチン部分は溶けません。
デンプン分子は,α-グルコースが脱水縮合した構造からなり,らせん状(直鎖)に結合した比較的分子量の小さいアミロースと枝分かれ状の比較的分子量の大きいアミロペクチンからなります。
アミロースは,熱水には溶け出し,のり状のコロイド溶液となりますが,アミロペクチンは,枝分かれ状で分子量が大きいため,水分子が内部まで入り込めず熱水にも溶けません。
一方,セルロース分子は,β-グルコースが脱水縮合した直鎖状構造からなります。
そのため,分子同士が平行に並んで接触しやすくなり,ヒドロキシ基によって水素結合で分子同士が強く結びついているので,水には溶けにくくなります。
□問題⑩
□解答 …… 誤り。
アミノ酸は,結晶や水溶液中では,分子中で-COOHが放出したH+を-NH2が受け取り,双性イオンの形をとっているため,極性溶媒である水にはよく溶け,無極性溶媒である有機溶媒には溶けにくくなります。
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溶解性に関する正誤問題
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